あじわい歌詠集
百年の時を経て東京にカムバック。
福井の元祖ソースカツ丼。
奏す庵
「カツ丼」といえば全国的には“卵とじ”が主流ですが、「カツ丼と言ったらソース」という県があります。福井県です。しかもそれは県民にとってのソウルフードで、「奏す庵」ではそのソースカツ丼をこだわりの食材で提供しています。あえて薄さにこだわった肉とサクサクの衣と特製ソースが織りなす世界観。「目指すは大人のファーストフード」だそうですが、いやいや食の記憶に残る美味しさです。
日本のカツ丼の歴史は大正2年、
早稲田の鶴巻町から始まった。
ー看板メニューの「ワセカツ丼」とは?
日本で「カツ丼」が生まれたのは大正2年。西暦で言うと1931年、早稲田鶴巻町にあった洋食店「ヨーロッパ軒」の高富増太郎氏が、ドイツのシュニッツェルを模したカツレツをウスターソースに付けて丼に仕立て、料理の発表会で披露したのが始まりとされています。
しかし、ヨーロッパ軒は関東大震災で被災。高富氏は故郷の福井で店を再建してソースカツ丼を作り続けたというストーリーがあります。当店の「ワセカツ」は、そのカツ丼のカツをオマージュしたものです。“早稲田”で生まれて、“素早く揚げる”から「ワセカツ」。注文を受けてから揚げますが、お待たせしません(笑)。
早さの秘密は、計算された肉の厚みにあります。ワセカツ丼(ランチ1,100円、ディナー1,200円)には4mmのウスカツが3枚、8mmのアツカツが2枚。ともに目の細かいドライパン粉をつけた後、1分で揚げることができます。「薄い!」と思われるかもしれませんが、カツの美味しさは肉の厚みだけでは決まりません。
秘伝の甘辛ソースに浸され、ふっくら炊き上げたごはんの上に乗った2種類のカツレツ。丼の蓋を開ければソースの匂いが鼻をついて、食欲をそそります。サクサクの食感とともにムース仕立ての特製辛子ソースで味変も楽しみながら、「薄いから美味しいカツ」をどうぞご賞味ください。ただ薄いといえど肉感はしっかり味わえます。そしてごはんは、低農薬千葉県産コシヒカリ、味噌汁には福井の名刹「大本山永平寺」御用達の米五の味噌を使用。日本の食文化の豊かさも再確認してもらえたら、そんな思いもあって食材や調味料はこだわりを持って選んでいます。
美味しさの鍵を握る
薄い肉!短い揚げ時間!ソースに浸す!
ー揚げ物のイメージが変わるくらい、油っぽさを感じないのですが。
見た目はどこにでもあるフライヤーですが、実はハイテクが仕組まれています。1秒間に5万回の電磁波を流しながら揚げているんです。食材に含まれる水分が油に付着するのを防ぎ、カツ衣への油分の吸着は一般的なフライヤーの約半分に抑えられるという優れもの。肉のジューシーさ、野菜のみずみずしさを損なうことなく、からっと揚げることができるというわけです。
野菜もぜひ味わっていただけたらと思います。イチオシは椎茸です。しっとり感、ふっかふか感を残したまま衣に包まれた椎茸は絶品です。
カツ2枚に野菜を3品お付けした「ベジミックス丼(ランチ1,100円、ディナー1,200円)」や野菜だけ(5品)の「ベジカツ丼(ランチ1,100円、ディナー1,200円)」もあります。夜メニューでは単品でもご用意しています。「胃もたれなしのカツ丼」と評価してくださるお客様が多く、「揚げ物を食べたのなんて何年ぶりかしら」という80代の女性がリピーターになってくださるほど、いい仕事をしてくれるフライヤーです。
大切なのは
肉と衣と絡まるソースのバランス。
ー揚げたてのカツを茶色く染めるソース、甘辛のバランスが絶妙ですね。
店名の「奏す庵」は、「ソースというものはいろいろなものの掛け合わせて作る、いわば奏でたフーズ」というところからの命名です。ましてや“ソースカツ”の店ですから、妥協はできません。味のベースに置いたのは京都のツバメソースのゴールド。香りを生かした少し辛口のウスターソースですが、そこに加える甘さは試作を重ねて、重ねて…。甘味の組み合わせは50種を超えるパターンを試しました。
結果、行き着いたのがアガベ。アガベはテキーラの原料としても知られる植物ですが、カロリーの低い甘味料としても注目されています。おかげですっきりとした甘辛でカツの美味しさを引き上げつつ、ごはんとも実によく絡み合うオリジナルソースが出来上がりました。揚げたてのカツにじゅわっと染み込んだソースの風味。これぞワセカツです。
ー裏メニューはありますか?
裏というわけではありませんが、夜の単品メニューにある「ポテサラカツ(400円」は、おつまみとしても人気です。ウスカツ用の肉にポテトサラダをのせて揚げたものなのですが、ビールはもちろんサワーや日本酒にも合います。日本酒は福井の「常山」と「花垣」をご用意。なかでも「花垣」は少量生産に徹している南部酒造場の調熟純米古酒を取り寄せています。厳選した純米酒を古酒専用貯蔵庫で寝かせた古酒は、心地よい熟成香が特徴です。夜はお酒を嗜みながら、丼や定食で締める、そんなふうにも利用していただけたらと思っています。
あと、お食事の前には桑の葉茶と福井産の梅干しをお出ししています。桑の葉茶には糖質の吸収スピードを遅らせる働きが。梅干しはちょっと口の中を酸っぱくしてからお召し上がりいただくと、当店のソースの味の奥行きが引き立つからです。ぜひ一度、お越しいただければと思います。
※この情報は2023年1月現在のものです。
※メニュー内容や価格等、予告なく変更する場合や取扱いを中止する場合がございます。