三井のオフィスの取り組み COLORFUL WORK PROJECT 三井不動産
日本橋ゆかり
三代目
野永 喜三夫さん

日本橋の同じ三代目として尊敬できる大先輩です。

たいめいけん
三代目
茂出木浩司さん

「たいめいけん」といえば、1931年創業の日本橋の老舗洋食店。歴史小説家の池波正太郎氏、映画監督の小津安二郎氏といった著名人が足繁く通い、日本の洋食文化に多大な影響を与えてきました。その「たいめいけん」を現在率いるのが三代目のオーナーシェフ、茂出木浩司さん。メディアにも多数出演され、料理人としては異色の日焼け姿と親しみやすいキャラクター、さらに超一流の腕前で知られています。「自分の使命は100年、200年というお店を続けられるように発展させること」という茂出木さんに、これまでのこと、さらに未来のお話を伺いました。

もう一つの家だったから
お店の味とにおいは体に染みついていました

ー幼少期のころはどんな思い出がありますか?

今、メディアに出ている姿から想像しにくいかもしれないのですが、小さい時は気が弱く引っ込み思案で、人前に出るのが苦手な子でした。幼いころは調理場で親や祖父の真似したり、その当時働いていた料理人さんとじゃれあったりするなど、調理場が遊び場でした。今のたいめいけんビルは私が小学校5年生のときにできて、ずっと変わりません。両親が仕事をしているので、お店に行ってご飯を食べて家に帰る、という生活をしていました。だからお店に行くというより、家から家を行き来しているような感覚でしたね。

たいめいけんの料理は小さいころから食べているので、絶対音感ではないですけれど、舌で覚えていたんです。調理場も見ているから、作り方も大体わかっていました。それに当時は祖父と祖母、両親と姉、僕、さらに地方から出てきた若い料理人の人たちと一緒に暮らしていたんです。だからお店のにおいや空気感といったものは、幼いころから自然に体に染みついていたと思います。

中学に上がってからだいぶ変わりましたね。毎年アメリカにホームステイに行ったり、サーフィンにはまったり。次第に今のキャラクターになっていきました。真っ黒に日焼けしているのも、このころからなんですよ(笑)。

ーお店を継ごうと思われたきっかけは?

今でこそ料理人は注目されるようになりましたが、当時は裏方でそんなにかっこいい仕事だという印象がなかったんです。だから小さいころは「料理人になりたい」とは思っていなかったです。ただ長男だから「やらなきゃいけない」という意識はどこかにあって、高校卒業後に料理の道には入りました。ただ、そのころはまだ気持ちが固まっていなかったのも事実。他のことに目移りしたり、「これ」といった強い思いは持っていませんでした。

でも料理の仕事を続けているうちに、気持ちも変化していったんです。実は祖父が1977年に『たいめいけんよもやま噺』という本を出版し、私たち孫に初版本を一冊ずつ配ったことがありました。その本の表紙裏に「おまえは『たいめいけん』の三代目だ」と自筆のメッセージが書いてあったのです。ちょうど22、23歳のころにそのことを思い出し、「やはり祖父が託してくれた思いどおり、たいめいけんを継ごう」と決心がつきました。

ー「たいめいけん」には“タンポポオムライス”といった名物がありますが、長年愛されるメニューであり続ける秘訣とは?

料理というものは変わるんです。材料も調味料も豊富になっているし、調理器具も進化している。昔は材料が3つくらいしかなかった出汁も、今は10種類くらい入っている、ということもあります。あとは生産者の方々も、非常に頑張っています。卵ひとつとっても、エサにこだわったり、自然な黄身の色が出るようなものにしたりと、よりよいものを追求しています。だから私たちもオムライスなどに使う卵は、そういったものを選ぶようにしています。同じ料理でも新しい調理法にチャレンジして、もっとおいしくなったとか。基本の味は守りつつ、私たちは今一番いい素材や調理法を研究しながら、日々進化しているんですよ。

日本橋が変わり、店も自分も変わる。
これからが人生最大の大勝負です

ー今、新しく力を入れていることは何でしょうか?

これまでテレビのお仕事もレギュラーをいただいたり、料理トークショー、料理教室、コラボ商品など、やりすぎるくらい、いろいろなことにチャレンジしてきました。お店も今は10軒やっています。そして来年、2020年から最終進化します。

というのも、たいめいけんビルがある一帯は大規模再開発地域となって、街自体が変わるんです。だから私たちも変わらざるを得ないのですが、逆にそれはすごいチャンスだと思っていて。未来に向かって日本橋が大きく変化するにあたり、たいめいけんはどうあるべきか。昔ながらの味を守るのは当たり前なのですが、やはり時代によってさらに進化をしなくてはいけない。私も今52歳なので、おそらく人生最大の大勝負だと思います。

具体的にこれからどうしていくのか、といったお話はまだ言えませんが、自分が小さいころから触れてきて、自分の中にしみついている「たいめいけん」というものを表現していくつもりです。だから自分がたいめいけんだと思うものを残し、必要ではないと思ったものは捨てていくと思います。

本当にダイナミックに変わりますから、どうなるか楽しみにしていてください。

※(左)広々とした2階のレストラン、(右)熟練された腕前を快く披露してくださった茂出木シェフ

ー大勝負をひかえて多忙な日々を送っていらっしゃると思いますが、休日の過ごし方は?

今も風が吹けば、サーフィンに行きますよ。あと最近は、日本橋や銀座を散歩してごはんを食べに行ったりしています。 これまでさんざん名だたるシェフのお店や知っている料理人のお店には行ったので、そういったところはもういいかなと。

新しいたいめいけんは、ファミリーで行けるお店を作るつもりです。やはり洋食は、基本的に家族で気軽に楽しめるものだと思っていますから。

※この情報は2019年10月現在のものです。